ニャーは猫である。バイトは「たぬきマート」だ。

昔の言葉で言うところの「賑やかな市場」、それがたぬきマートの店内である。ニャーは売り場のおにぎりを並べながら、常連客の石川婆さんと談笑する。「ニャーさん、おはよう。今日のおにぎりは何味?」と婆さん。微笑みながら「おはようございます、今宵は焼き鮭と昆布がございますよ」とニャーが答える。おにぎりは並べる時におおよその人気の味を覚える必要があるのだ。ニャーは商品を知り尽くした猫である。

コーヒーマシン脇には、町内会の若手会長である佐藤さんが足繁く通う。ニャーは深夜にコーヒーを淹れる達人でもある。「ニャーさん、今日も美味しいコーヒーをよろしくね!」と佐藤さん。ニャーは「何を仰います、いつでも美味しいコーヒーを淹れるのが私の誇りでございます」と優雅にお辞儀する。コンビニコーヒーは淹れ方ひとつで味が変わる。ニャーはお湯の注ぎ方に秘密があるのだ。

ある日、店長がニャーに向かって言った。「ニャーさん、たぬきマートでは来週から新しいお弁当を取り扱う。その準備をお願いします」。ニャーはうなずき、棚の配置やPOP作りに精を出す。新商品の配置は売り上げを左右する重要な仕事である。どこに置くか、いかに目立たせるか。ニャーはそれを考えるうちに、店内に風が吹いてきたかのように感じた。

深夜、新商品の準備が整った。ニャーは一息ついて店内を見渡す。そして、外を見ると雪が降っていた。ある男性が店に入ってきた。泣きそうな顔をしている。ニャーが「何かお困りでございますか?」と声をかけると、男性は「家に帰れなくなってしまった」と答えた。ニャーは店内の暖かいスペースを指差し、「どうぞ、こちらでお休みください」と男性を誘った。その夜、男性は店内で過ごし、翌朝感謝の言葉を述べて立ち去った。

時は過ぎ、新しいお弁当の売り上げが好調である。店長はニャーに感謝の言葉を述べた。その日の終わりに、石川婆さんがニャーのもとにやって来て、「ニャーさん、先日の男性は私の息子よ。あなたに感謝しているの」と告げた。ニャーは石川婆さんにお辞儀し、「何を仰います、お手伝いできて光栄でございます」と答えた。

数日後、たぬきマートには大きな花束が届けられた。それは先日の男性と石川婆さんからのもので、カードには「ニャーさん、ありがとうございました」と書かれていた。ニャーは店内で皆に祝福され、一瞬だけ人間のような照れくさい笑顔を見せた。

この頃、ニャーはレジの打ち込みが速くなってきている。商品のバーコードを見るだけで価格を言い当てることができるほどだ。ある日、ニャーがレジで働いていると、佐藤さんが走ってきて、「ニャーさん、急いでいるので、早く!」と叫んだ。ニャーは颯爽とバーコードを読み取り、佐藤さんの商品を秒速で袋に詰めた。佐藤さんは感謝の笑顔で店を出た。

ニャーはたぬきマートで多くの人と出会い、多くの経験を積んだ。コンビニの店員としての日々は、彼の心を豊かにした。ニャーはおにぎりの配置やコーヒーの淹れ方、新商品の準備、さらには人々の心の機微まで学んだ。

たぬきマートの閉店時間が近づくと、ニャーは店内をきれいに掃除し、商品を整理する。そして、店の外に立って深夜の空気を感じながら、「さてと、明日も良い一日となりますように」と独りごちる。

ニャーは猫である。だが、彼の心は、たぬきマートで働くことによって、人間以上に深く、広くなったのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました